西洋古典学への誘い

西洋古典学を学ぶきっかけ

 変人の道は世界に通ず

 今回、西洋古典学(西洋古代史)の研究を始めたきっかけについて教えてほしいと依頼され、昔のことなどをいろいろと思い返してみました。私が古代ギリシア史で卒論を書こうと決めたのは、今からちょうど15年前、学部3回生(二十歳)のころでした。大学に入ったら、外国のことを勉強して外国に行きたい、とおぼろげに思い描いていたのですが、私が高校生だった時分の1990年代なかばには、まだ中国や韓国はそれほど身近な存在ではありませんでした。今となっては恥ずかしいことなのですが、そのころの日本の高校生にとって、今以上に欧米にたいするあこがれは強かったのだと思います。それでは、なぜ古代ギリシア史だったのかというと、これも正直に申せば、ギリシアのことをほとんど何も知らなかったからです。世界史の教科書では、冒頭のほうでちょこっとだけ紹介されているだけですが、どうやら後々までさまざまな方面に影響を与えたらしい。だったら、古代ギリシアのことを勉強しておけば、ほかのところにも手を広げられるのではないか。そんな甘い考えで始めたのです。

 こんな次第ですので、いま西洋古典学に興味を持っておられる方には、私の体験はあまり参考にならないかもしれません。むしろ反面教師として受け取って欲しいぐらいです。ただ、この楽観的な見方も、今となっては、あながち外れていなかったのではないかとも思います。というのも、私はこれまでイギリスとオランダの大学で計3年間研究生活を送ることができましたし、トルコにも一月間だけですが、語学留学することもありました。研究の関係で、ヨーロッパや地中海周辺各地の古代遺跡も訪ねまわれますし、学会発表で韓国や中国、オーストラリア、アメリカなどに行く機会もあります。西洋古典学のおもしろさは、世界のどこでも誰でもやっていい、という門戸の広さにあります。確かに、2千年近く前の世界のことを一生懸命に勉強していると、周囲からは「変人」と見られるかもしれませんが、どうか安心してください。「変人」は世界中のどこにでもいるのですから。

阿部拓児(京都府立大学准教授)