Q&Aコーナー
質問
史学科で西洋史を専攻しましたが、社会人になり歴史とは疎遠になってしまいました。博物館や美術館に行くこと以外で、日常生活の中で西洋史とかかわりをもつにはどうすればよいでしょうか。また先生方は日常の中でどんな風に情報収集されていますか。一般人でも実践できそうなことがあればご教授お願いいたします。
(質問者:ササモ様)
回答
ご質問ありがとうございます。
参考になるかどうかわかりませんが、私のゼミの話をします。私は現在、教員養成系の大学の教育学部で教えており、外国史の教員は私一人ですので、私のゼミ生の研究テーマは西洋史・東洋史の全ての時代・地域にわたります。私のゼミの大きな特色は、卒業生が熱心にゼミに参加してくれるという点です。とくにコロナ禍でzoomが普及して以降は、学期のうち何回かは夜19時からzoomでゼミを開催しており、現役ゼミ生を上回る数の卒業生が参加し、毎回、3時間ほどに及ぶ活発な議論が続きます。私のゼミの卒業生は、約8割が小中高の教員をしていますが、高校で世界史を教えている人以外はふだん仕事では歴史にほとんど触れていないにもかかわらず、彼らの議論のレベルや精度は現役生の頃と全く変わっていません。私は常々、ゼミ生には、卒業後も自分が卒業論文で扱ったテーマについて新しい本や論文が出たらできる限り読むように、と言っているのですが、卒業生たちは仕事が忙しいなかでそれを実践しており、歴史研究から遠ざかってしまいたくないという思いでゼミに参加してくれているのです。
もちろん、このように卒業後に大学のゼミに参加するというのは稀なことかもしれませんが、重要なのは、やはり、歴史に関わる本や論文を少しずつでも読み続けることだと思います。博物館や美術館に行くことや現地に旅行することももちろん大切ですが、歴史を勉強するうえで基本となるのは「読む」ことです。「読む」ことを継続してこそ、博物館や美術館をよりいっそう楽しむことも可能になります。大学の史学科で西洋史を専攻されたとのことですので、卒業論文で扱ったテーマについての新しい本や論文に触れる、ということを意識してみてはどうでしょう。まずは、月に一度、あるいは2ヵ月に一度でも、大型書店の世界史の棚を眺めてチェックするという習慣をつけ、気になった本を購入する、もしくは図書館で借りるなどして読むとよいと思います。
新しい文献についての情報の収集は、私たち研究者も日々実践していることですが、一般の方も利用できる役に立つツールがたくさんあります。たとえば、当学会の学会誌『西洋古典学研究』(オンラインでも3年前のものであれば閲覧できます)には巻末に「古典学関係文献目録」があり、歴史では西洋古代史のものに限られますが、最新の単行本や論文がリストアップされています。史学会が発行している『史学雑誌』の第5号(「回顧と展望」号)には、前年に刊行された全ての時代・地域の歴史に関連する単行本や論文が紹介されています(『史学雑誌』の「回顧と展望」号はオンラインで閲覧できませんが、公立の大きな図書館であれば所蔵されています)。
当学会のホームページにも、学会・研究会、研究室、個人のホームページのリンク集がありますが、こうしたサイトでも文献や新刊案内などの情報が得られます。また、これは私のゼミの卒業生たちが今もやっていることですが、自分が卒業論文で扱ったテーマを専門とする研究者のResearchmapやSNSを定期的にチェックし、その研究者がどんな新しい本や論文を書いているかをフォローするのもいいでしょう。近年は、論文もオンラインで閲覧できるものがかなり増えています。そうしたメリットを活かして、日常生活のなかで日々アンテナを張って情報を集め、少しずつでも「読む」ことを継続していくのが肝要だと思います。
(回答:澤田典子)